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第一章 やくも

第一章 やくも

2025年11月8日
読了時間: 2分

更新日:2025年11月11日

和子は岡山駅で伯備線特急やくもに飛び乗った。目的地の備中高梁までわずかな行程である。車中で自由席を探したが、どこにもない。知らない間に全席指定に変わっていた。

4両しかない車両の2両目に空席を見つけると(空席だらけではあるが)、真ん中に近い窓際に決めた。上着を脱いで座った途端、どこかで見ていたかのように車掌がやってきた。

「お客さま、切符をお持ちでないですね。申し訳ありませんが、購入いただけますでしょうか」

嫌です、と言えるはずがない。財布からクレジットカードを取り出し差し出した。車掌は慣れた手つきで決済し、ハンディ券売機からにょろにょっと出てきた切符をやぶり和子に手渡した。

「到着駅では、窓口のある改札をお通りください。自動改札機には入りませんので」

当たり前でしょ、そんなことするバカなんていないわよ。そう思いながら「はい、わかりました」と答えてペラペラの指定席券を財布に納めた。

車窓から見える風景は30年前と何も変わらない。山があり川があり舗装道路があり、田畑もある。ときどき現れる民家も昔と変わらないように見えるが、傷んだところを修理しながら、代々の住民が暮らしているのだろう。だから30年前から何も変わっていないように見えるのだ。

そういえば、山を覆う樹木も古くなった葉や枝を落とし、新たな枝を伸ばし、新緑を広げている。何も変わっていないように見えて、実はそうではない。瞬間瞬間に古いものを脱ぎ捨てて新たな姿に変わり続けている。同じように見えて、本当は何ひとつ過去と同じものはないのだ。

暇にまかせてそんなことを考えているうちに備中高梁駅に着いた。さて、どうしよう。備中松山城にでも行ってみるか。雲の上の城として有名だし、いつのまにか住みついたという老猫を撫でてみるのもいいだろう。和子は何の計画もなく、一人旅をしているのであった。

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